拙者と晩御飯


幕張メッセからの帰り、車の中で聞かされる孤高のグルメはマヂ拷問。途中食いもの屋全然ないんだもの


12月初旬、拙者はサーバー搬入の立ち会いで帰りが遅くなっていた。
普段なら5分と待たずに職場前に来るバスも、すでに本数がまばらになり、
寒空の中、耳が冷たくなるころにようやく来るくらいだった。
冷たくなったコートの懐にPASUMOカードを戻しつつ、車内を見やると人影もまばら。
拙者は一人掛けのシートに座り、社内の温かい空気を吸い込んでようやく人心地ついた。
さて、晩飯はどうするか。
家に帰ってから食うか、それとも食ってから帰るか。
時計をみると時刻はすでに21時を回っている。帰ってから食べるとなるとさすがに遅すぎるか…。
しかし外食は高くつく。フムン。
そうこう悩んでいるうちにバスは駅に到着する。車通りも少なく、乗ってしまえばあっという間か。
バスを降りると冷たい夜風が容赦なく吹き付ける。早く帰れとせかしているようだ。
拙者は肩掛けのバックを背負い直し、駅に入ろうとした、と、そこにアナウンスの声が

『―――繰り返しお伝えいたします。現在1番線、2番線は●●駅での人身事故の為、電車が止まっております。お急ぎの方は3番、4番線で最寄り駅まで―――』

拙者はくるりと身をひるがえし、駅を出た。

瞑目すること2秒。よし。ラーメンにしよう。

そして足を運んだのは一風堂。有名チェーン店であるが拙者は嫌いではない。
週の初め、遅い時間という事もあって店内は満席ではあれどさほど待つことなくテーブル席へと通された。
この、60センチ四方に満たない空間。ここに全てが集約されている空間が拙者は好きだ。
辛しもやし、高菜、ルイボスティー、箸、紙ナプキン、餃子のたれ、ラーメン出汁、ごま、にんにく…所狭しと、だが整然と机のわきに整列するそれら。狭い机の、それでも広く開けた面前に並んだコップとメニュー。
拙者はコートをかけて座るとメニューも見ずに注文をする。いつものメニュー。赤丸硬めでで、あと餃子一枚。
「はい、赤丸硬め、餃子一枚!」
元気に復唱して店員がカウンターへ向かっていく。
拙者はルイボスティ―を口に含み、まんじりと待つ。
普段ならもやしに手を付けて、それをつまみながら待つのだが、今日はなんとなしにそんな気になれなかった。疲れているのだろうか?

「赤丸硬め麺です。餃子はもう少々お待ち下さい」
きたきた…。
拙者は箸より先に脇に控えるごまを手に取る。ゴマをガリガリと砕いてかけて、それから箸を手に取る。
「頂きます」
箸をてに挟んだまま合掌。あまり行儀のよいことではないのでお勧めはできないが、食材、料理に感謝をするのは悪い事ではござらん。

一風堂の赤丸はとんこつベースの白いスープに辛味噌とひき肉を和えた独自の味噌玉を加え、さらに焦がし油を加えたものだ。一般のとんこつ味に飽きた人。あの独特の臭みが苦手な人でも食べられるように工夫されている。

拙者はまず味噌玉や焦がし油をよけてスープを掬う。白いとんこつスープだけ、ちょっと味わう。
それから麺を頂く。味噌玉や焦がし油がつかないようによけて頂く。

うん。温まる。

まずはベースになるとんこつ味を堪能し、それから味噌玉を突き崩してあえる。焦がし油側はもうちょっと後だ。
突き崩したことで白いスープがほんのりと朱色に染まる。独特の辛味がちょっとだけ加わり、食が進む。
厚切りのチャーシューは熱で油がトロトロになり、二つに割れてしまっているが、それがちょうどいい大きさになっている。
片方をつまみ、ぱくり。豊かな肉の味わいが口いっぱいに広がる。美味い。

その後はひたすら麺をすする。時折焦がし油側から麺をすくうと濃厚な焦がし油の味が口いっぱいに広がる。
それをルイボスティ―で流し込みまた新たに一口。
「餃子お待たせしましたー!」

きた!

拙者は小皿を用意するとそこに餃子のタレ―――ではなく、ゆず胡椒を添える。
まずは餃子単品で頂く。熱い肉汁をかみしめる。美味い。
ついでゆず胡椒を添えて頂く。肉汁の味とさわやかなゆず胡椒の香り。美味い。
そして再び麺をすすり、スープを口に含む。うむ。美味い。

美味い美味いと食べて行くと、あっという間に箸がどんぶりの底をついた。
拙者は横を通りかかる店員に抜く手も見せずに伝票を差し出す。
それだけで店員も心得たもので「硬さは?」ときた。拙者も一言「バリ硬で」と返す。
店員はボールペンをガっと走らせ、厨房に声をかける。
「替え玉一丁、バリ硬で!」

追加注文を終えた拙者は餃子のたれを注ぎつつ思案する。

さて、どうする?

この「どうする」は追加麺をどう食するか、だ。
高菜を入れて食べる? それは白丸の楽しみ方だ。
にんにく? 明日も仕事だ、息が臭くなるのは頂けない。
それににんにくは生より火を通した方がいい。やるなら一杯目だ。
もやしか? 辛くなりすぎるのも頂けない。そういえばまだもやしを食してなかったな。食べておくか。
小皿を左手にもやしの壺まで近づけるのはタレが滴って机を汚さない為。高菜の壺に掛かったりしたら目も当てられない。
もやしを食し、やっぱ辛いとルイボスティ―で舌を洗う。
とんこつラーメン店で脂肪吸収を抑えるルイボスティーを出すというのはホントに心憎い気配りである。
こうした点がこの店が女性客も多い理由だろうなどと埒もないことを考えていると茹で上がった麺がさしだされる。
「お待たせしました、替え玉、バリ硬です」

拙者は礼を言って皿を受け取るとそのまま皿の中身をどんぶりにドボンと流し込んだ。
あ、焦がし油混ざってしまったでござるな…かくなる上は!
拙者は空いた皿を店員に返すとどんぶりの中の麺とスープをサッとかき混ぜる。
芯の残ったバリ硬麺にブレンドされたスープがなじむ。なじむぞフハハハ。
そして食う。うむ、先ほどまでとはまた変わりしっかりと芯が感じられる。バリ硬麺は一杯目で頼むと
どうしてもスープの温度に負けて芯が消えてしまう。なので一杯目は硬め麺程度がちょうどいいと拙者は思っている。

二杯目はそんな気兼ねも必要ない。
麺をガツガツと喰らう。この歯ごたえが堪らない。

あっという間に食べつくした。餃子も全部。腹の中だ。
さすがにスープを飲み干すことはしないが…うん、満足でござる。
拙者は電車が動いている事を願いつつ、会計を済ませる。

「あ、スタンプお願いするでござる」
「ありがとうございましたー!」
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