夏の夜向けのお話し

諸兄へ


拙者が引越しするに当たり、連絡が途絶え、大変ご迷惑をおかけしていることを大変心苦しく思う。
またご近所にはまともな挨拶も出来ぬままとなってしまったこともとても残念でござる。

この夏の盛りに引越しをしたことに関しては、正直面倒だな程度にしか考えていなかった。
拙者のこの認識が甘い、というのは諸兄からの叱責を頂くまでもなく、今この身にしみて重々承知している次第だ。

7月22日、海の日の祝日だった21日とその前日の日曜、拙者と妻は大急ぎで荷を段ボールに詰めた。詰めまくった。そして積み上げた段ボールは拙者の背よりも高く、全くこの部屋のどこにこれだけの荷物があったのかとあきれさせるに十分だった。
もちろん先だって個人の趣味の収集品の数々は分配し、箱詰めし、自身の車により輸送済みである。(それだけでも4往復もかかった!)
しかしそれでも拙者たちの荷物は山のように大量で、朝9時から来る予定だった引越し業者から「渋滞があり、30分ほど送れる」との連絡があった時は不謹慎にも妻と共に「助かった」と思ったほどだ。
ともあれ、段ボールに詰めるだけの簡単な作業はぎりぎりまで続き、拙者たちは到着した引越し業者に請われるままに詰め込みの指示に終われたのだった。

昼前になり、冷蔵庫や解体した本棚など、大きな荷物の運び込みを終え、まずは一便を出そうということになった。
新居までは車で大体20分ほど。拙者たちも荷物に合わせて自家用車で移動となる。荷物は2tトラックだ。こちらは作業員の小休止も挟みつつ、引越し先に向かうことになる。

ここで一つ目の事件が起こった。渋滞だ。アパートを出発し大通りに出たとたん、見たことも無いような渋滞が発生していた。一体何があったというのか。あいにく拙者の車にはGPS連動ナビゲーションシステムなどという便利な機能は付いてない。(据え置いているのは分厚い首都圏MAPくらいだ。)
渋滞の波に乗ることしばし、300m進むのに10分近くかかるという状態だ。ぎらつく太陽の下、車の列が作り出す熱量はものすごく、とてもではないが窓を開けておくことなど出来ない。それ以前に排気ガスで参ってしまうだろう。拙者はエアコンを効かせつつ、渋滞の列をにらむがいっこうに解消される気配は無かった。
そこで拙者は仕方なく、裏道を使うことにした。きちんとルートを把握しているわけではないが主要な道路は頭に入っている。それに従って裏道で抜けていくことにした。
結果は上々だった。最後にちょっとだけ渋滞に捕まったが、それでも元の道を亀のような早さで進むよりはよっぽどましだろう。
小躍りしたい気分で最後の角を曲がる。この角を曲がって直線を300m程進めば、十字路の向こうに新居が…。

そして二つ目の事件が起こった。
新居へと通じる道が閉鎖され、誘導員が立っていたのだ。
いやな予感を感じつつ、窓を開けると、道路工事特有の機械音が聞こえてきた。まさか?! まさか?!
「あのー、これは一体…」
「あー、ハイハイ。水道工事デス」
目をこらせばちょうど拙者の新居の手前の十字路がほっくり返されているではござらんか!!

驚きつつもあの工事現場の先に行きたい旨を伝えると、大きく道を迂回して、裏手側から回るしかないと
いう。
窓を開けて伝わる熱気にいやな汗をかきつつ、拙者は車をそちらへと向けた。裏手へ回るには一方通行道路を迂回するため二つ十字路を越え、左折、線路まで進み、もう一度左折する。細く暗い路地に心配を募らせながら遠方を見やると、ぽつんと道路工事中の立て看板と警備員が見えた。車を寄せて事情を説明すると色黒な老警備員が無言で看板をよけてくれた。

こうして新居までたどり着いた拙者だが、言いようのない不安に駆られた。
これどうやってトラック入れるんだ?
汗を拭きつつ携帯で業者に連絡を取り、工事の旨を伝える。先方もかなり焦っていたがとにかく近くまで向かうとのこと。
どうなってしまうのだろうと心配しつつ30分ほどまつと、漸く携帯電話が鳴った。
拙者が電話に出て現在位置を確認、再度誘導して裏手へと回ってもらう。
道幅はギリギリだったがなんとか入ってくることが出来た。とにかくもう、時間がかかった。
そこから一気に荷物を運び込む。運びこむ。運び込む。途中、拙者のキャビネットを持ち上げるとき、業者の人間が「金庫より重い」と苦しげに漏らしたがソレも些細なことだ。
一杯目が空になると再度荷物を積み込みに元の住所へと戻る。渋滞も解消しており、正規のルートで現地に到着した。だが時刻はすでに5時を回っていた。だというのに工事は未だに進行中で、大きく迂回して搬入しなくてはならないのは相変わらずだった。
机、箱、ラック、本棚、箱、椅子、箱、ベビーサークル、箱、箱、洗濯機、箱、箱、箱…。
絶え間なく運び込まれる資材で埋もれていく新居。全くもって大変な作業であった。
皆が汗だくになり作業を終えたのが結局19時すぎだった。

業者が帰る頃には皮肉にも道路工事も終わっていた。こうして漸く拙者の慌ただしい引越しが終わったのだ。
くたくたになった拙者はもう、どうにもならないほど重くなった体を引きずり、風呂に入る。
まだ荷物の開梱など一切手を付けてないが、そんなものにさく余力は残っていなかった。

そう、力尽きる寸前の拙者にはこの後我が身に降りかかる最後の事件など、全く予想も出来なかった。

布団は専用の袋にまとめられていた。なんとか余力を振り絞ってそれを一つ開梱、妻と子供の分だけでも、と布団を敷く。自分の分など、とてもではないが開けられそうにない。拙者は毛布を一つひっつかむと、それを床に敷き、横になった。

九時頃…深夜、とは普段なら言えぬような時間帯。カラスの甲高い鳴き声が耳朶を打つ。
拙者は眉を寄せ、身をよじり、あえぐように一息つく。
寝苦しい。異様に高い湿度と室温。そう、熱帯夜だ。
一つしか無い扇風機は妻と子のいる一階の部屋にある。拙者が寝る二階は窓を開け放っていたが風が全く
入ってこない。いや、木の葉も揺れぬ所を見ると吹いてすらいないのだろう。

あつい。

はらわたが煮えるような暑さだった。

あつい。

じめつく汗は滝のようにながれ、襟元など、その汗で締め付けられるようにすら感じる。

あつい。

ああ、なぜ、なぜだ。

あつい。

なぜクーラーがないんだ!!

そう、拙者の家にはまだ、クーラーが無かった。それは某メーカーが今年は冷夏になるという前情報を信じ生産調整に入ってしまったためだ。だが実際はそうではない。例年通り、いやそれ以上の暑さで今、拙者をむしばんでいる!!

あつい。ああ、あつい。

溶けるようだ。

とけ---

拙者は混濁した意識の中でこう考えた、
次は、次の引越しはエアコン付けてからにしよう、と。
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Comment

エアコンのない夏は考えられぬ・・・。
私の部屋のエアコンが壊れたときは
リビングで寝たりしたものです。

熱中症に気をつけて生きろ!

Re: タイトルなし

貴様には分かるまい。この俺の体を通して出る汗が!(Byカミーユ)

いやもう、ひもの一歩手前でござる。正直体がもたぬ;
あ、明日にはエアコン設置予定なのでござるがorz
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