ある日常

ZAN Side
パイオニア2内、公団分譲住宅にある一室。拙者は朝食の用意を終えてテーブルにつくと新聞を開いていた。
「フム、大きな動きはなしか」
総督の愛人問題事件以来、これといった事件もおきていない。平和はなにより、と思いつつも日々の刺激に物足りなさを感じる有閑ハンターであった。
と、その新聞からはらりと織り込みチラシがおちる。
「ん―――?」
広げてみるとID別レアテーブル変更表とあった。
「ほう、もうこんな物もでまわってるでござるか」
一人ごちると拙者は自分のIDを覗き込む。すでに廃王子やハカセたちの協力で目ぼしい欲しいものは出してしまっていた。
「フム・・・」
愛用の湯飲み―――脇に”雑学”と書かれている―――に茶を注ぎ、眺めるようにそれを見る。と―――。
「―――ム?!」

DAN Side
目を覚ますと、見慣れた天井があった。いつもと代わり映えのない、ユニット構築の天井。淡い黄色のカーテン、そのカーテンを透過する陽光。
ラグオルの周回軌道に乗ってから、パイオニア2では太陽光を時刻毎に光量を調整して取り入れている。
…今日も起きられたか。
DANはゆっくりと体に血が巡るのを確認すると麻布団をよけ、上半身を起こす。
「まだお迎えはなしか、ばあさんや…」
ぽつりと口をつく思いにかぶりを振る。
最近、目が覚めると自分がまだ生かされている、と感じるようになっていた。
高齢者のDANにとってこのパイオニア2への参画はけして容易な決断ではなかった。全くの片道チケット、帰れる当てはない。だが帰るべき場所もすでにない身だ。ならばこれまで自分が培ってきたものを後世に伝え、未開の地であるラグオルで暮らすことになる者たちの礎になろうと決心した。
皆が地表に降り、笑顔で暮らせるようになる。その日まで…。
ドタタタタ、スパーン!
「じじい、起きるでござるよっ!」
「うわぁい、ワシの哲学的モノローグだいなし…」
ワシはがっくり、じーちゃんショーックという目つきで居候アンドロイドを見やる。
だが熱い血の通ってないロボはそんなことはお構いなしに持ってきたチラシをDANに突きつける。そらもー目も血走らんばかりの勢いだ。あれ?
「とにかくこれを見るでござる!」
「…近すぎるわい」
目を細め、紙を遠ざけてやっとそれに書かれている文字を拾うことができる。
「キャンペーン期間のレアドロップ表かの」
「そうでござる!で、そこ、VHの下から3番目! お主のID!」
「…ラムダージャン………ふぉ?!」
「そう! ラムダージャンでござる!! レアの中の激レア! あれさえあれば固いバブータの肉を三枚におろすのも、サテライトリザードのうろこ落としも、アスタークのかぶと割りも思いのままという名剣でござる!!」
「その用途はどうかと思うがーーー」
「ええい、つべこべ言わずにさっさと掘りに行くでござる!」

Gelbe sorte Side
えーとぉ、昨日はスパロボを43話まで進めて明け方布団に倒れ込んだんだっけ…。
パイオニア2は娯楽が少ない。元々移民船団として限られた期間を過ごすためだけにつくられた施設で、無論町もあるし娯楽施設もあるしそこにはそれなりの遊びもあるが、やはり新しいものは早々生み出されていない。
だから趣味のレトロゲーを大量にアーカイブしてこの旅に参加した。暇つぶしは多いほどいい。だが最近はハンター業もそこそこにゲームに没頭しすぎている。自慢のタリスもほこりをかぶって久しい。
今日も眠い目を擦りながら目覚ましTVを眺め(占いカウントダウンは必須)ていた。するとーーー階段を降りる音を響かせつつ、じーちゃんがフル装備で降りてきた。フローズンシューター、スプレッドニードル、ヤスミニコフ9000、チャージグレイブ…そして愛用のブラウンのハンタースーツに過酸素呼吸装置のついたヘルメット。肩にはクロネコ型のマグ・シャトの黒ゴマ丸が浮いている。
「どしたのじーちゃん?」
「おう、ちょいと出かけてくるぞい」
「…なんか気合入ってるねぇ」
「うむ。これの所為じゃ」
そういって新聞のチラシを僕に見せる。そこには一ヶ所だけ赤いボールペンで丸がつけてあった。
「…へー、おじーちゃんのIDでラムダージャン出るんだ…っって、まって!」
僕はがしっとハンタースーツの襟を掴む。
「ぐえ、なにをする」
「じーちゃん、これ、ギルっちからじゃん」
「ギルっち? どこぞの英雄王かの?」
「…どっちにしても勝てないじゃん、そんなの。そうじゃなくてギルタブリル。地下砂漠の中ボスじゃん」
「あー。大丈夫大丈夫。ノープロブレムじゃ」
DANはちっちっちっとどこぞの私立探偵のようにうつむいた顔の前で人指し指を振ると、最後に顔を上げてニカっと笑って親指で自分を指し示した。いや、分け分かんないから、その自信。
「わしにはこのスプレットニードル改・しびれ丸がある。あんなやつらこいつでしびれさせてちょちょいのぱーじゃ」
それを聴いてボクはため息をついた。だめだ、全然分かってない。
「あのね、じーちゃん。あいつらは中ボスなんだよ?」
「ふぉ?」
「だから、クエスト受けても最後の部屋にちょーーーっとだけ出てくるに過ぎないからすっごく探すのが面倒な上、効率が悪いんだ」
「ふぉ…」
「その上、絶対取り巻きがいるよ、ゴランとかデトナータとか、それに………ヨーウィとか。じーちゃん、トカゲは銃きかないよね?」
「……ふぉ」
「うん、まあやるんだったら極幻5だろうけど…じーちゃん一人だとまず無理ね」
あ、顔色が悪くなった。スーツに勝るとも劣らない土気色だ。
「まあ、あれだ、ハカセたちに手伝ってもらえば?」
「そ、そうじゃのそうする」
「…あ、ボクお土産クレイオーでーーー」
いいから、と言おうとするとじーちゃんはダッシュで行ってしまった。ちぇっ。

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