見知らぬ天丼

「―――さん。―――さん」
「う、ううう…おのれミャンマー柳生一族め!」
「あ、起きた!!! ZANさん!!」
「んあ?!」
拙者はガクガクとフィロ殿に揺さぶられていた。いや、ちょっと、く、首が痛くなるでござるっ。
「よかった~~~~~」
ああ、フィロ殿、そんなにも拙者の心配を…。
「もうすこしで身内から犯罪者を出しちゃうかと思ったよぉぉぉ」
…そっちでござるか。いや、フィロ殿? おぬしの兄(ハカセのこと)は充分に、いや、十二分に犯罪者でござるよ? 多分、ばれてないだけで…。
ともかく拙者はセルフチェックプログラムを走らせてすかさず状況を把握する。
cpu_chek...ok
ram...1024kb
system...ok
うむ、ソフト面は問題はござらんようだ。しかし…。
拙者は延髄に受けた損傷のほか、各部に傷を負っていた。隙を突かれたとはいえ、あまりにも無様な敗北である。
「負けたのでござるな…不覚」
いや、隙を作ったこと自体、拙者の弱さでござろう。武人たるもの、いついかなる時も気を抜くなどという事があってはならないのである。
「そういえば、ELD殿はどうなったでござる?」
拙者はあの時引きずられていたELD殿のことを思い出す。
「うん、秋子マスターがリリー捕まえてくれたから。ELDは今、軍に事情聴取受けてるよ」
「そうでござったか、いや、さすがマスター秋子…って軍に捕まったと?!」
「マスター秋子っていうと顔だけ残して体竜巻にして突っ込んできそうだね」
「んなことどうでもいいでござる! それより!」
「ああごめん。つかまったってのはないよー。任意同行で出かけただけだから。すぐ帰ってくるよ」
「そうでござるか…」
拙者がほっと一息つくと、病室のドアがバンと開いた。
「はっとりん!」
拙者のことをこう呼ぶのは一人しかいない。ハニュのVIVI殿だ。
彼女こそ、ラグオルでも誰も見たことがないという(伝聞)レインボーコンドリューが落とすという(推定)スロットアイテム、「ヘヴンリー/美形」を捜し求める探求者、別名永遠の美形狩人である。
「はっとりん、突っ込んできたダンプを投げ飛ばした後、タタラを踏んで電信柱の角に足の小指思いっきりぶつけて入院したんだって?!」
「誰がんなことで入院するかっ! つか、パイオニア2に電信柱はござらんっ!!」
ないと思う、うん。多分。
「まあまあ、ホラ、元気が出るように天丼つくってきてやったぞ!」
「…なんで天丼?」
「あれ? これ出すと『わたしがやりました』って全部ゲロっちゃうんじゃないの?」
「…VIVIちゃん、それはカツ丼だよ?」
「ほえ?」
「それ以前にここは病室で、取調室ではござらん」
と、それで思い出した。
「と、ELD殿は大丈夫でござろうか?」
「うん、事情聴取といってたから多分今日のところは…でもZANさんの口から一件が明らかになったら…」
フィロ殿が顔を曇らせる。無理もない。確かに拙者が何をしたか、何があの場であったかは拙者がしゃべってしまえば一発である。だから―――。
「フム。VIVI殿の言うとおりでござるな」
「ほええ?」
「拙者は足を滑らせて、頭を打って入院したと、そういうことでござる」
「ZANさん…!」
「じゃあ、やっぱダンプを―――」
「だぁっ! そこでダンプと電信柱は要らんのでござる!」
なにかいいたそうにしているVIVI殿を黙らせて、拙者はフィロ殿に向き直る。
「大体、現役の高Lvハンターがミルリリーにやられたなんてなったら、カッコ悪いでござろう?」
拙者の言葉にフィロ殿は泣き笑いになりながら同意してくれた。うむ。コレでよい、コレでよいのだが…。
「ところでウチの連中は…見舞いにはきてないでござるか?」
拙者の言葉に答えたのはVIVI殿であった。
「あ、DANじいちゃんならさっき廊下であったよ? 『ナースさんじゃーーー!』とか言いながら駆けてったけど…」
「…アノジジイ」
傷の後遺症か、痛む頭を抑える拙者の頭上、看護ベットのIDタグがある。
その時、拙者はまだ気がつかなかった。拙者の所属チームがいつの間にか、ハカセのそれ、「D因子研究所」に書き換わっていることを…。




「ところでZANさん、ミャンマー柳生って、ナニ?」
「…さ、さぁ? なんのことでござろう?」

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