退院の日

その日になって、いや正確に言うなら退院の手続きをするためメディカルセンターの受付窓口に立って初めて、自分の所属するチームが変わっていることに気がついた。
「D因子研究所???」
どこかで聞いた名前だ、いやぁな予感がする。
拙者のいぶかしげな顔を見て、受付嬢が怪訝そうにまゆをひそめる。
「あのぉ、なにかぁ?」
「あ、いや、拙者の所属チームは抹茶のはずなのでござるが」
「えぇっとぉ、でも書類上はそうなっているんですがぁ…」
妙におどおどした態度で書類と拙者の顔をくり色の眼で行ったり来たりしている。ニューマン特有の長い耳もせわしなく動いている。むう、拙者そんなに怖い顔してるか?
「まあ、データ不備かなにかでござろう」
データ改ざんした下手人が脳裏に浮かぶ。得意げに顎をさすり、「フフン」と鼻で笑っている。
「フフン♪」
そうそう、ちょうどそんな感じ…って?!
「ハカセ…やはりお主か……」
この男、ウィヶッド。通称ハカセ。人間ーフォースー男。暗黒属性が高くそれを身にまとう黒い装束で表している。
ちなみにフィロ殿の双子の兄に当たる。まさに陰と陽、月と太陽、シャドームーンとブラックサンな関係である。
「そのとおり、いや、あっけなかったぞ、こう、お主が担ぎ込まれたときにちょちょいとな」
不敵に笑いながらいう。
「いや、しかしお前が地に伏せるとは思わなかったぞ、あの花、研究に値する」
「拙者はビー玉に足を取られてひっくり返っただけでござるよ。それよりーーー」
拙者は受付嬢からカルテを借り受けてウィケッドに突きつけ、小声で訪ねる。
「これはなんの冗談でござる? 文書偽造までしてーーー」
「うん? 文書など偽造していないぞ?」
不敵に言うウィケッド。なぜかゴゴゴゴゴという地鳴りのような効果音。
「言っただろう? おまえが倒れたときにと」
いかなる威圧感か、拙者と哀れな受付嬢はまるで蛇に睨まれたカエルのように動けない。
いや、正確には拙者ちょっと呆れててなにも言えなかったって感じでもあったのだが。
「まだわからないのか? 自分に何が起こっているのか?」
効果音がエレキギターのギャウゥゥウンという音を響かせる。
「な、なんだというのでござる?」
「ワタシは文書は偽造していないといっているのだ」
「ま、まさか?!」
思わずそう口にしてから拙者は慌ててシステムをチェックする。
show config

files=80
buffers=10,0
stacks=9,256
device=himem.sys
device=EMM386.EXE RAM
devicehigh=biling.sys
devicehigh=jfont.sys /p=
devicehigh=jdisp.sys
devicehigh=jlang.sys /gozaru jlang.sys
devicehigh=kkcfunc.sys
devicehigh=ansi.sys
OS=HIGH,UMB
.
.
.
.
.
rem set team=抹茶
set team=D因子研究所


「ぐはっ! か、かかか、改ざんされてるーーー!」
「フハハハハ!」
ウィケッド、高笑い。拙者はぐらりとめまい。受付嬢は…あ、もう泣き出しそう。
「そう! 貴様のコンフィグはこのワタシが改ざんした!」
「く、こんなものはすぐ修正して---!」
「あ、ついでにフラッシュメモリのジャンパーを書換不可にしといた」
ドッギャーン
「な、おまっ! ちょっと待つでござる!」
「ちなみに貴様のシステムは起動中にそのジャンパーを交換することは不可能!」
バッとてを広げて謡うように宣言するウィケッド。
「さらに貴様の家人はボケ老人と機械音痴のFO坊や! つまり自宅で直すことも不可能!!」
広げてた手をババット自分を抱くようにたたみ、くるりと回転するウィケッド。
「つまり貴様は今や完全に我が掌中におちたのだ!」
ビシィっと拙者(たち)の方を指さすウィケッド。JOJOか、お主は。
……あーあ、受付嬢引きつっちゃってるでござるよ。
まあこの男、根はひね曲がっているが、悪いヤツではない。…悪さはかなりするが。そうだ、この間だってうちのジジイレイマーDANと極幻4を受けて二人で進んでたら、最後の最後で回線オチやらかしてくれた。おかげでボス相手にDANが一人で四苦八苦。「危うく済度するところじゃったぞい」と呻きつつ帰ってきたばかりだっけ。
「で、いったいナニがしたいのでござる?」
「うむ、実験体…いや、運用試験を手伝ってもらおう。なに、さして危険ではあるまい」
いや、じゅーぶん危険だと思います。それになにさ、実験体って。
「…まあ、分かった協力はしよう」
「よろしい! ではこれらにサインを!」
懐から幾枚かの書類を取り出して受付カウンターに並べていく。おいおい、カウンター占領でござるか。受付嬢もなにか注意を…ってのも無理か。震えちゃってるし。
「♪~」
鼻歌交じりでカウンターに書類を並べていくウィケッド。普通で異様な風景である。
「さ、書きたまへ!!」
「………」
差し出された年代物の万年筆を手に取り、拙者は書類をみやる。
「『はじめてのD因子』『研究所内心得』『チーム所属誓約書』…いろいろあるでござるな」
「まあ、気にするな! ーーー大きい声ではいえないがこれでも一応政府機関なのでな」
拙者はそんなものか、と思いつつ書類をチェックしていく。
「さあさあZAN! 細かいところは気にせず、ぽぽんとサインをしてくれたまえ!」
気にする。つか、絶対気にする。
「…ハカセ、ここの『負傷時における所内手当てについての合意』部分、削除でござる」
「え?」
「それからこの『研究時体験調査誓約』と『実験時の全般的合意』の中、部分削除でござる」
「な! まて! おまえ! それでは意味が!!」
待つものか。
「ハカセ、拙者の知る偉人、ヒースクリフ・フロウウェン殿もこうおっしゃってる…『実験体だけは死んでもなってはいかん。つか、なったら死ぬ』と」
「そんな過去の偉人引っ張り出すな~~~っ!」
声を上げるウィケッドをさらりと無視して、拙者は万年筆で必要と思われる部分にがりがりと訂正線をいれていく。小さい字でかかれた書類の至るところに線が引かれていった。
「ふむ、こんなところでござるか」
拙者は全体をざっと見直すとレーザー刻印でサインを付け加え、ウィケッドに手渡す。
「あああああああ! …ああ! ………あああああああ!」
訂正部分を見るたびにウィケッドが奇声をあげる。ふむ、そろそろ潮時か。
「もし、すまぬが」
拙者はカウンターの隅っこに退避していた受付嬢に声を掛ける。まるで小動物のように震える彼女をできるだけ怖がらせないように、端的に用件だけを述べる。
「ここの支払いはチームにつけておいて下され」
「は、はいぃ」
「それから警備員は拙者が行った後にして頂けると助かる。では」
それだけ言い残すと拙者はいまだ書類と睨めっこして奇声を発するウィケッドの横を抜けメディカルセンターのドアを抜けた。
すれ違いざま屈強なガードマンが走っていったが、後のことは拙者のあずかり知らぬことでござる。

スポンサーサイト

Comment

Comment Form
公開設定

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。