PM:2:00 パイオニア2ハイランド

退院した拙者は行きつけの店、パイオニア2ハイランドにいた。
といっても、絶叫マシーンが設置されてるわけではない。中はシックな英国様式の店作りで、昼はレストラン、夜はバーとなる。
「ああ…いらっしゃい」
中に入るとカウンターからマスターのハイアームズ氏が柔らかい笑みで声を掛けてくれた。
拙者がカウンターの席に座ると、マスターは無言でいつものを出してくれる。
「…災難だったな」
ぐっ。むせそうになった。
「し、知ってるでござるか?」
「知ってるも何も、巷じゃちょっとした噂になってるよ?」
「…ビー玉で転んだ、ということじゃやっぱり」
「無理があるね」
ずばり、と指摘された。むぅ。妙案だと思ったのだが。
拙者が頭を抱えてるとドアが開き、新たな客が入ってきた。
「ワッフー」
あ、客じゃなくて犬か。
「犬いうな!」
「口に出してなかったのでござるがな。…お手」
「ワフ」(たしっ)
「…犬だねぇ。ラフくん」
「犬でござるな」
「はッ、俺はいったい何を…」
拙者の横でみごとに『お手』をして懊悩しているのはラファエル。(一応)人間=レンジャー=男。かなり犬属性が強いがそれなりに名の通ったハンターズギルドのメンバーである。
「そだ、思い出した、はっとりん!」
なぜか一部の人間は、拙者のことをこう呼ぶ。なんででござろう?
「ELD君が行方不明なんだって!」
「は?」
拙者はそこでようやく、三日前の事情聴取から彼が自宅に帰宅してないことを聞いた。
「…よもや嫁が怖くて逃げ出したなんてオチはないでござろうな?」
「ワフ? それはないと思う。ほら、らぶらぶだから」
「らぶらぶでござるものなぁ」
…あの花がらみか?
「マスター」
拙者が声を掛けるとハイアームズ氏が静かに頷く。今までの柔和な顔の下で、彼の本来の職業、ハンターズとしての顔が目を覚ます。
「ちょっと調べてみよう。”裏”でなにか情報が流通してるかも知れない」
「”裏”でござるか…」
「そうだな…ウィケッド氏にでも連絡してみては?」
「あー。すまん、それちょっと無理でござる」
「?」
「…明日くらいには連絡着くと思うでござるが…」
拙者は遠い目をして答える。まあ確かにハカセなら何か分かるかもしれん。
「む、電話でござる」
拙者は通信端末をとりだす。本来、アンドロイドは内蔵されてる通信端末で事足りるのだが、拙者は趣味で端末を持ち歩くようにしている。…い、いや別にWEBアプリで遊びたいとかじゃないでござるよ?
「もしもし?」
『あ、フィロです。ZANさん、今どこ?』
「拙者ハイアームズ氏の店にいるでござるよ。ELD殿の件か?」
拙者が訪ねるとフィロ殿はとうとうと話し始めた。ELD殿があの悪名高いブラックペーパーと取引のある裏組織に拉致されたらしいこと。取引が今日、行われるということ。その場所と時刻ーーー。
「分かったでござる。とりあえずハカセにーーーああああ」
『どうしたのZANさん?』
「い、いやこの手のことならあやつに詳しいことを調べさせればよいと思ったのだが…」
『うん、ボクもそう思って何度か呼び出してるんだけどぜんぜん繋がらなくて……』
心底疲れた声でフィロ殿が言う。うう、すまぬ、フィロ殿。
「すまぬ。…あやつは今、多分取調室にいると思う」
『!?』
電話の向こうでフィロ殿が息を飲むのがはっきりとわかった。さすがに兄弟のこと。ショックも大きいでござろう。
『兄さん、また何かやっちゃったの?!』
…慣れてるのね、フィロ殿。

スポンサーサイト

Comment

Comment Form
公開設定