地下洞窟の取引 その1

「こちらユーグ、目標が現れましたー…でもやっぱりELDさんいないですねぇ」
『了解、そのまま見張ってて』
「りょーかい」
ユーグ殿はそういって無線を切ると、拙者達が身を隠す岩場の影に滑り降りてきた。
「でもおかしいですね。ELDさん居ないなんて」
「いや、思ったとおりだな」
ハイアームズ殿がライフルのセイフティを外しながら反論する。
「多分彼はまだパイオニア2の中に居る。取引条件が整ってからリューカーで呼び出すつもりだろう」
「あ、なるほど…でもそれだとパイオニア2のハンターズセクションのどこかにELDさんが居ることになりますよね?」
「そうとは限らない。ラグオルの別の地点で待機していてそこからリューカーで中継されたら厄介だ」
そう、たとえばまったく別の地点にやつらの本隊が居た場合。リューカー越しの追跡は非常に厳しい。
「じゃ、じゃあ…ギルドカードを用いた検索!…は、はELDさん、IDが停止されててダメだし…」
ユーグ殿は頭を抱えている。人間・フォース・男性。彼はまだ若い。人間としてもハンターとしてもまだまだ学ばなければならないことは山ほどあるだろう。
だがその柔軟な思考はけしてそれらを不可能にはすまい。
「まあ、実際にELDが現れるまで、手が出せないということね」
拙者の横で肩をすくめたのはRose殿という名のヒューキャシールだ。アンドロイド・ハンター・女性、通称:姐御、である。
「で、ZAN。ボウヤを奪い返した後、あいつらはどうするの?」
言外に『当然、タダではすまさないわよね?』といっている。
「いや、基本的には手出しはしない。禍根を残して今ここに居るメンバーが報復されても厄介だ。やつらには運が悪かった程度に思っていただこう」
「なにそれ? 甘いわよ。そんな連中一網打尽にしちゃえばいいじゃない」
「組織の規模がわからん。それに相手側はいいとして取引相手の方がやっかいでござる」
拙者がそういうとユーグ殿が顔を上げた。
「それってブラックペーパーってヤツのことですか? たしかに凄腕のハンターがそろってるって聞いたことあるけど…」
「うむ、超一流といっていい」
拙者の言葉に二人のベテランハンターも同意する。
「猟犬キリークね…たしかに厄介だわ」
「まあ、やつらとは個人的には事を構えたくはないね」
ユーグ殿はちょっと眉をひそめた。
「なんか、ずいぶんと慎重ですね、お二人とも…」
そのうち判るでござるよ、ユーグ殿。
拙者は現在場に居る3人を注意深く観察する。
一人は小太りのレイマー。手に持ってるのはSニードル。高速で広範囲をカバーする厄介な兵器だ。
もう一人は痩せぎすのヒューマー。手にしているのは使い込まれたグレイブ。
最後の一人が大柄なフォーマーだ。
「フォーマーはともかく、後の二人は手練ね」
Rose殿が忌々しそうにつぶやく。確かにあの二人は装備といい、気配といいけして三流どころではない。
「えーと、あの大きなフォーマーは?」
「ボウヤ、観察力を鍛えなさい。あれ、どうみてもフォーマーとしては体格よすぎない? どう考えても偽造IDのバッタモンよ」
「え、あ、ああ」
ローズ殿にいわれて、ナルホド、とユーグ殿が頷く。確かにフォーマーの体格ではない。衣装も体にあってるとはいえないから十中八九ニセモノだ。
やつらは虹の滝の手前まで来ると油断なく辺りを見回す。おあつらえ向きに、現在一本だけリリーが咲いている。実験にはもってこいだろう。
「フィロ殿の言ってたとおりか。あとはブラックペーパーの連中が来れば…」
拙者がそこまで言った時である。やつらが入ってきたのと反対側、つまりフィロ殿たちが隠れてるほうのドアが開き、3人の人影が現れた。
「どうやらこちらも来たようでござる―――なっ?!」
最後の「な」は驚きの声だ。それもそのはず三人のうちの一人は拙者の見知った顔であったのだから。
「はれれ? ZANさん、どーしてウィケさんが??」
それは拙者が聞きたいでござる。


入ってきたのは、やはり3人。一人が小柄なハニューエル。一人ががっしりとした体格のヒューマー。そして最後の一人が黒尽くめのフォーマーだった。
「ようこそ、プロフェッサー・シェイド。光栄ですな、アナタが着てくれるとは」
大柄なフォーマーがいそいそと歩み寄ると、形だけの笑顔を浮かべて大仰に頭を下げる。シェイドと呼ばれたフォースは肩をすくめて返事とした。
「なに、D因子の研究に関しては私に一任されている。適材適所だ」
彼はそういうと静かな笑みを浮かべる。
「それよりもこちらも礼を言う。なんでも貴重なサンプルをご提供いただけると聞いたが、それはアナタのことかな?」
先ほどの自分の物とは違う、心からの笑みをみて大柄なフォーマーは明らかに狼狽した。
「い、いや私はグレイネルという司祭だ。サンプルは別に居る」
「…なるほど? 後ろの二人のいずれかかね?」
値踏みするようににらまれ、後ろの二人も思わず一歩後退さる。

「……なんか、すっげー悪者っぽいよ、ウィケさん」
「……悪者っぽいでござるな」
「……格が違うわね」
「……ホントだね」

「この者たちは私のボディーガードだ!」
グレイネルと名乗った男が上ずった声で答える。
「フム。まあこの地下洞窟を一人で散策するような真似は感心しないからな…たとえばそうだ、そこの花。そいつはオブ・リリーといって致死毒を吐く。どんなハンターでもイチコロだ」
判りきった講釈をしながら、シェイド=ウィケッドは肩をすくめる。
「だがその花を意のままに操ることが出来るとしたら? それは大変興味深い」
先ほどと同じ暗い笑みを浮かべる。
「もしそのような技術を研究するサンプルを頂けるなら、我々とそちら、双方にとって有益な取引となることをお約束しよう」
「あ、ああ。そうでしょうな。私もそうなると願っていますよ」
グレイネルが合図をすると、後ろの小太りのレイマーがリューカを唱えた。
「お渡ししよう、貴重なサンプルだ」
そういってリューカの中から現れたのは簀巻きにされ、気を失ったELD殿を担いだレイキャストだった。

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