地下洞窟の取引 その2

「来た!」
「まだだ。リューカから少し離れるまで待て」
逸るユーグ殿をハイアームズ殿は言葉で制した。その間もライフルの銃口は向こうを狙っている。
「よし、では手はずどおりに…ユーグ殿、テクは使うと気取られる可能性が高い。支援は拙者たちが飛び出してから頼むでござる」
「わ、わかった」

「ビクター。そいつを持って来い」
大柄なレイキャストはELD殿を肩に担いだままゆっくりとグレイネルとシェイドの方へ歩き出す。
シェイドはまだ担がれてるのがELD殿だとは気づいていない。顔が見えないからな。
「待ちたまえ」
シェイドがビクターを制した。
「おあつらえ向きにそこに格好の実験材料がある。ぜひともその男がリリーを操るところを見せてもらおうか?」
「い、いやしかしそれは危険では?」
「なぁに、花の一本や二本、私たちにはどうということはない。だがもし万が一実験が失敗でもしたら、サンプルとしては不適格だということになる。私も研究時間が惜しい」
「判りました…。ビクター、そいつを下ろして縄を解け」

「そろそろでござるな…」
「…堂に入ってますねー、ウィケさん」
あまり関心せんがな。
「姐御、準備は?」
「いつでもいいわよ」
「さっきも言ったとおり、ブラックペーパーの連中には銃を向けないで下され。ややこしくなる」
「心得たわ」
「了解」
「わっかりましたー」

「う…ん? はわ? ここは一体…?」
ELD殿が気がつく。と、その身に大口径の銃口が突きつけられる。
「気がついたようだな。さぁ、お前の能力を見せてもらおうか?」
「え? は?」
ELD殿は辺りを見回し、ようやく自分が置かれた状況を確認する。
「えええ?!」
ちなみに小山のようなビクターが邪魔で、まだブラックペーパーの連中は見えていない。
「さあ、歩け。あの花を従えてこい」
「い、いやそんな?!」
「無理だとは言わせぬ。お前がパイオニア2でリリーを従えてたことはすでに調べがついてる」
「はへ? …あ、あー」
根が善人な為すぐに顔に出るELD殿
「…あれじゃ尻に敷かれるわけね」
Rose殿、的確な突っ込みアリガトウ。
「い、いや、できるよーな、できないよーな?」
「できなきゃ死ぬだけだ」
グレイネルがどん、とELD殿を突き放す。

―――好機!
拙者とROSE殿がはじかれたように飛び出す。
同時にハイアームズ殿が援護射撃。見事その一撃は小太りのレイマーのスプレットニードルを叩き落す。
その機を逃さず、Rose殿のダガーが紅い線を引く。手練のレイマーもあっという間に戦闘不能に追い込まれる。
痩せぎすのヒューマーの反応は素早かった。拙者がちかづくのを察知し、素早くグレイブを振り上げる。
黄色いフォトンの光を引いてその刃が拙者に襲い来る、だが―――。
ガン!という音と共にその攻撃は拙者の盾に防がれる。正確にはグレイブの柄を受け止めた形で。
慌てて間合いを外そうとするヒューマー、だがこちらのほうが早い床から掬い上げるように跳ね上げた鎌の柄頭が奴の胸を強打し、突き飛ばす。。
そこで横に居たビクターと呼ばれたレイキャストが動いた。素早く持ち上げたハンドガンでこちらに狙いをつける。が、その攻撃よりも早く、
ハイアームズ殿のニ撃目がビクターを襲う。
「かたじけないっ!」
拙者は叫びつつその鎌をビクターに振り下ろした。
そのときになってようやくシフタとザルアが掛かる。
「ボウヤ、そういうのは終わる前にやってよ」
「い、いや早すぎて何がなんだか…」
Rose殿に揶揄されてユーグ殿はしどろもどろだ。
拙者は勤めてそれを無視し、ブラックペーパーの面々とグレイネルに向き直る。

「さて、実験は失敗でござるな、シェイド博士?」
拙者がそう言って目配せする。拙者くらいのアンドロイドになるとそういう芸当も可能なのだ。
「ん、ああ…どうやらそうらしいな。いや、こちらとしては政府のハンターズの実力の一端を垣間見れた。よい収穫であったよ」
シェイド=ウィケッドはそう言って肩をすくめるしぐさで後方にリューカを作り出す。
「こちらは退散しよう。あー、グレイネルとか言ったな」
そろそろと逃げようとしていたグレイネルが名を呼ばれ体を震わす。
「私たちはコレで失礼する。今回の取引はなかったことで。いや、やり直しは結構。互いに不幸になることもあるまい?」
そういうとシェイド=ウィケッドはもうグレイネルに興味がうせたとばかり首をめぐらせ仲間をリューカに促す。
やれやれ、これで一安心…と思った途端!
ぐぽん。という聞きなれた音と共に紫の塊が拙者の横をすり抜けていった。
「なっ?!」
見るとリリーが葉でELD殿を抱きしめ、こちらに向かってメギドを撃っていた。
拙者がとっさに鎌を振るおうとすると、なぜか頬に白粉をつけたELD殿が声を上げた。
「待って! ZANさん、後ろ後ろ!」
この非常時にドリフのコントということはない。拙者が振り返ると先ほど突き飛ばしたヒューマーがハンドガンを取り落としつつ倒れるところだった。無論、メギドの直撃のせいだ。
「ヒイッ」
グレイネルが短く悲鳴を上げてついに駆け出した。おお、あの体形からは考えられないほど敏速だ。
「…追わんでいいのか?」
リューカを閉め、ウィケッド殿がそう尋ねる。
「いや、拙者たちそこまでお人よしじゃないでござるよ?」
そう、逃げた先にはとんでもない人が待ってるのである。後に軍警察に収容されたグレイネルは恐怖のあまりマトモに口も聞くことが出来ず、ただ震えながら、ブツブツと繰り返し呟く事になる―――「あかいあくま」と。
断末魔の悲鳴がシャーウィン殿の怒声と重なって聞こえたのは、グレイネルが滝の間のシャッターを抜けたすぐあとのことだった。

「さて、あとは…」
拙者がELD殿の方を振り返る。するとELD殿は花を袖で丹念に拭いていた。ふき取った袖は白粉で真っ白になり、ふき取られた花は本来の赤い色を取り戻していた。
「ってまさかその花!!」
そう、それは拙者を打ち負かしたあの花本人(?)だったのだ。
「うん、そーだよー。すごいね、白粉塗ってオブリリーに変装してたんだね」
「フ、なるほど。それは懐いて当たり前、ということか。いや、よくやったぞ、花子」
ウィケッド殿がうんうんと頷きつつ花の方に近づく。と―――その頭が花弁に丸呑みされた。そう、あえて擬音語をあてるなら…「かぷり」である。
『おおう?!』
驚きの声をあげるウィケッド殿。なんだ、死んでないのか。
と、安心したのもつかの間。花はすっぽりとウィケッド殿の頭を丸呑みにしたまま、ブンとその首を振り上げた。当然ウィケッドの体も宙を舞う。
そしてそのままびったんびったんと右へ左へとウィケッドを打ち付け始めた。
『ギヤァーーーー!』
「わわわわ! やめてーーーー!!」
ELD殿の声も聞く耳持たず。まるで『キサマがわるいんじゃぁぁ!』といわんばかりの勢いでびったんびったんと打ち付けている。
「…止めなくていいの?」
拙者の横で倒した連中を怪しい縛り方で縛り上げていたRose殿がそう尋ねた。
「いや、拙者がいうても止まりそうになさそうでござるし、それに―――」
「それに?」
「いい薬でござろう?」
それからびったんびったんの刑はシャーウィン殿とフィロ殿が、原形をとどめていないグレイネルを引きずってくるまで続いた。
こうしてELD殿誘拐事件はその幕を下ろしたのである。


しかし、あの花、どうやってここまで来たんだ?(汗

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