帰ってきた女

その日、ワシはログオンするとはんなりとした京言葉のフォマールが声をかけてきた。
「お久しぶりどすなぁ」
ワシはその姿に見覚えがあった。あったのじゃが―――はて、誰じゃったかのぅ?
「あら、おじいちゃん、ボケ?」
やんわりすっぱり失礼なことを言ってくれる。まっとれ、今思い出すわい…。
おーおーおー。
「思い出した?」
「うむ、三丁目のカドのタバコ屋のミハル婆―――」
がいんっ。
凄い音がして何かと思うと彼女が握り締めた杖の石突が足元を深くえぐっていた。
い、いやちょっとした冗談じゃよ? あの婆様はもう3年まえに亡くなってのう。…そんな怖い顔で見るな。
うーん、・・・おお!
「思い出しました?」
「うむ、あれだ、先日バス停で気持ちよさそうに鼻歌歌ってた堀の内のトメば―――」
ぐきり。
今度は握り締めた杖にひびが入っておった。いや、ほんとにお茶目な冗談じゃ。あの婆様はこう、皺くちゃの115歳でな、まだまだ元気だというとるがとおの昔にカンオケに片足つっこんどるような干物ババァじゃ。
ええっと…。うむ、そうじゃったそうじゃった。
「思い出しました…?」
「うむ、思い出した。保養センターのヌシ、キヨカば―――」
ばきっ
…うわ、おっちゃったぞい。
「…ボケた押すのもええかげんにせんかい、ワレ!」
いやじゃな、バサラさんや。怒ると皺が増えるぞい。

というわけで一ヶ月ぶりに引越しが終わってバサラさんたちが帰ってきたのじゃッた。
おわりじゃっ。

「せ、拙者の出番は?!」

しらんっ。

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