CAPTAIN DAN

レイマーのDAN。パイオニア2移住計画に参画した若きスペースマン。政府に属さず、軍に属さず、孤高を愛する一介のハンター。だが人は、彼をCAPTAIN DANと呼ぶ。
サンプルD080601
セルパは階段を駆け上がるは大慌てで襖に手をかける。まったくなんでこんなことに…。
彼女の脳裏に浮かぶのは冷蔵庫の中に厳重に保存されたサンプルである。彼女は軍から臨時派遣(期間無期限)でパイオニア2に着任している。サンプルは、来週早々にも軍の上司に(無記名で)送り付ける手はずになっていたものだった。それが…。
「ZAN、緊急事態です」
襖をあけるとアンドロイドのZANは畳の上で刀の手入れをしていたが、セルパの切迫した声に顔を上げる。
「何事でござる?」
「サンプルD080601が消失しました」
「サンプルD080601…ハカセのケーキか?!」

ハカセのケーキ
セルパとZANは急いで1Fの台所に降りていった。そこには昭和初期の白くて角の丸い2ドアの冷蔵庫が置いてある。無論、自動霜取機能はない。
ZANはがちゃりと下の大きなドアをあけると野菜室の引き出しを開ける。
「…ここにいれてあったでござるな?」
「ええ、あれが勝手に動き出したという前例はありません。何者かがここから抜き去ったと見るべきでしょう」
「なんということだ。ハカセのケーキはD因子を含み、食べたものを内面的にも外面的にも変質させてしまう恐ろしい物質だぞ…む?」
「なにか?」
「これは…この箱は拙者はあずかり知らぬが?」
「ああ、それは先日ゲルベゾルテが送ってきてくれた本星の有名店のケーキですね。DANが後で食べようと冷やしておいたものかと」
二人の顔にいやぁな汗が浮かぶ。
「まさか…」
「そんな…」
そう二人が漏らしたとき、居間の方から苦しげな声が!

地獄の苦しみ
「DANの声だ!」
矢のようにZANが駆け出す。人間の身体能力を大きく上回るアンドロイドの彼はまさに流れるような動きで居間へと駆け込んだ。そこではDANが跪いてうめき声を上げていた。
「じじい! しっかりするでござる!」
そう言って近寄ろうとするZANをセルパが後ろから止める。
「まって下さい、どのような変化があるかは分かりません! 近づくのは危険です!」
セルパの目にもZANのセンサーアイにも机の上のケーキは写っていた。その横に無造作に開かれた箱はにはサンプルD080601と書かれている。
「ぐぅぅおぉぉぉおぉおぉおぉぉぅっ」
獣のようなうなり声を上げるDANその表情は入り口からは伺い知ることができない。ただその肩が小刻みに震えていることから、相当の苦しみを伺うことしかできないのだ。
「ぐぐぅぐ、うえぇええっぷっ」
「ドリフのコント?」
セルパが冷静な突っ込みを入れるがさすがに部屋に入っていくのは躊躇われた。
ZANもハリセンを投擲するべきかどうか思案に暮れていたが、するとうめき声が止まっていることに気がつく。
「だ、DAN?」
「うっく…ひ、ひどくまずかったぞ、このケーキ…」
「そこか?そこなのでござるか?!」
「フム、『サンプルD80601、味は最悪』っと…」

その姿は…
ログを取るセルパはそのメモの手を止めてDANを見ると目を見張った。
「ああ、まったく、本星ではいつの間にこんな味が主流になったんだ? こんなの統治宣言の前にも口にしたことないぞ、オレは」
「…だ、DAN…おぬしその姿……」
「ん? なんだZAN オレがどうかしたのか?」
DANはそういうと自分の身体を見下ろした。鍛え上げられた身体、ぴんと張った背筋。付き過ぎず、絞り過ぎていないその体格は体操選手もかくやというほど見事なものだった。がっしりとした見事な骨格に日焼けした肌。
「ん?」
その肌の艶は間違いなく青年のものだ。DANは自分の顔に触ったり、髪の毛をいじったりしている。
「DAN、これを」
セルパが手鏡をかざす。
そこに映っているのは50年のハンター生活を送った鋭い眼光と巌のような顔の老人ではなく、若く活力にあふれ精気みなぎる目とまだ幼さが覗くが凛々しく強い意思にあふれた青年の顔であった。
「…ふむ、どうやら若返ったらしいな」
DANが顎に手を当てて考え込む。
「な、なんですってーーー?!」
セルパが怒髪天を衝いた。
「ハカセのD因子が変な方向に働くのは知っていますがこんな現象は初めてです! いや、それよりもっ!!」
びしっと指さす。
「あなたの若かった頃がこんな好青年だったなんて信じられませんッ」
「ああ、なるほど、あのケーキはハカセのものだったか。フム、D因子が人体に及ぼす影響としては特異活性化があるのは知っているが…どうやらこのケーキのD因子はかなり弱まってたらしいな。多分その為に活性化が細胞変異までは至らず、活性化、老化復旧までに留まったのではないかな?」
「な?! そんな洞察がなんであなたの口から…? あなた本当にあのDAN?」
「そうは言われてもな。…ほら、これが昔の写真だ」
そう言って首からかけていたロケットを外し、中の写真を見せる。
色あせた、今どき珍しい2Dのフィルム写真に若い三人の男女が、銀色の宇宙艇を背景に写っている。
中央の青年はまさに今ZANとセルパの前に立っている男だった。
「…この御仁たちは?」
「我が愛機遊星号とその仲間さ。ちなみにそこに映ってる細い女性が若かりし日の某飯店のマスターだよ」
最高のいたずらを成功させた少年のような笑みでニカリと笑う。白い歯がまぶしかった。
「フム、たしかに骨格が一致するでござるな…ってDAN?! おぬし一体…?」
「まだコーラルが統一されていない時代、10カ国連合が局地戦争の収拾に躍起になってた頃の話しさ。まあ、ちょっとばかり年期が入ってるスペースマンだったってことだよ」
そういって肩をすくめる。
「さて、それじゃあ天気もいいことだし、ちょっとラグオルまで行ってみるか」

CAPTAIN・DAN
アスバルとユーグは総督府の作戦、マキシマムアタックの個人撃破数を稼ぐ為、普段は通らないルートを使って一気に撃は数を確保しようと画策していた。
このルートの敵は多く、手ごわかった。それでも普段ならさほど困りはしなかっただろう。
今回の欠点は互いにFO同士のペアだったこと。その一点だけだ。
ユーグは元来戦闘主体のFOである。それも武器を使っての戦闘をメインとし、テクニックを補助として使う所謂「殴りFO」。それに対してアスバルは標準的なテク中心、支援系を得意とする
「支援型FO」。その組み合わせであるがゆえに雑魚が頻発した直後に大型のエネミーが複数出現した場合、一つのミスが連鎖的にミスを生むことになる。
この場合、アスバルがたった一度、詠唱をキャンセルさせられたことにより敵の波状攻撃を許してしまった。何時やむともしれぬ攻撃を受け、互いにレスタを頻発する。防御、レスタを繰り返し、戦いはジリ貧になっていた。
緊急回避措置としてリューカを開いたものの、そのリューカの輪から今ははじき出されてしまっている。そして、そこまで行き着くのは今の二人にとって至難の業だった。
「ま、まづいね、こりゃ」
「…ウン」
二人の顔に色濃く疲弊がこびり着いている。ほんの少し、後少しだけ時間を稼げれば…。
その時、二人のもつインジケーターに3人目の表示が現れる。ハンターが共通の作戦に当たる際、互いの生命維持装置の状況を確認する為のものだ。名称はDAN。
「おじいちゃん?」
「DANさん??」
『助けに来たぞ、二人ともっ』
通信機から漏れる声はいつもと違い、やけに張りがある。
「おじいちゃん、リューカ、赤!」
『分かったっ 任せておけっ』
二人が必死の防戦を続ける中、敵めがけてスプレットニードルの針が降り注いだ。
「そら、騎兵隊の到着だっ!!」
張りのある雄叫びとともに白いスーツのレイマーがリューカから飛び出してくると、彼は敵の合間をすり抜け、こちらに向かいつつ、敵を翻弄する。
その戦いぶりはまさに手練のものだった。
あるものは凍結系のテクニックで固定し、突進してくる敵には火炎の陣のテクニックでけん制し、こちらに襲いかかる敵を背後からスプレットニードルで固着する。
それだけで攻勢はあっという間に反転した。アスバルが支援と雷のテクニックを、ユーグが手にした鎌を振るう。敵は瞬く間に殲滅された。
肩で息をつく二人に、白いスーツのレイマーは手を振って挨拶した。
「やあ、またせたな諸君!」
「「…誰?」」
「ハッハッハッ。誰とはご挨拶だな二人とも。……おいおいどうしたそんな顔して? ホントに分からないのか?」
「「ウン」」
「…やれやれ、困ったもんだな。インジケーターにはちゃんと映ってるだろう?」
「いや、だってこれ…おじいちゃん?」
「うむ。ハカセのケーキの製で少々若返ったが、オレだ」
「オレって…一人称まで変わってる」
「その上やたらと快活だ…」
二人が唖然として見つめていると彼はやにわに腕のインジケーターでメールを確認する。
「む、どうやらまたピンチに陥ってる仲間がいるようだ。ちょっと行ってくる!」
「え、あ、うん」
「とと、そうだ。二人にこれをやろう。がんばれよ」
そういうとDANはトリフルイドを数個づつ二人に手渡すと、リューカに乗って消えていった。
『さらばだ諸君! とおっ!』
インジケーターからDANの表示が消える。彼はまた旅立ったのだろう、仲間の危機を救う為に。
ラグオル地表にはトリフルイドを持ったまま、ぼう然と立ち尽くす。
一陣の風が彼らの間を吹き抜けていった……。

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