CAPTAIN DAN #02 決戦! 天災ウィケッドの罠!!(前編)

レイマーのDAN。パイオニア2移住計画に参画した若きスペースマン。政府に属さず、軍に属さず、孤高を愛する一介のハンター。だが人は、彼をCAPTAIN DANと呼ぶ。

お師様のケーキ
D因子研究所、そこはパイオニア2の研究部門、通称ラボに嘱託を受ける半官半民企業体数社による合資組織である。だが、それは表向きのことで実質はほぼ公的資金のみで運営されているラボ直属の秘密部門である。現在の責任者であるウィケッドはその職権を乱用し、日夜D因子の研究に励んでいるのだが、当然それだけでは研究所の対外的な部分は補えない。
Fo-フォース・人間・男-の千吏は、そんなことも知らずにD因子研究所に赴任してきた新人研究員であり、まっとうな研究しか今まで関わってこなかった。ウィケッドの奇行も「ああ、お師匠様ってこういうヒトなんだな」程度での認識しかしてなかった。だからこそ、こんな一言をポロリと吐いてしまったのだ。
「お師様のケーキ…僕も食べてみたいな」
場の空気が止まった。
そこはD因子研究員をはじめとしたハンターたちの溜まり場、喫茶店ハイランド。普段から流れるバロック系のBJMだけが、誰も発言できない店内に静かに漂っている。
それまで言い合いをしてたZANとウィケッドがまるでフリーズトラップを食らったように凍りついていた。
当然のように復帰したのはハカセの方が先だった。
「おお!! なんと!!」
話はちょうど、D因子研究所の三人、ZAN、翡翠、ウィケッドがラグオルで得たアイテムの中で千吏が使えそうな物をお土産として渡そうという時であった。いつものような会話の後、ちょっと口の端に上ったケーキのことから、千吏がポロッと呟いたのである。
ウィケッドは小躍りしそうなほど喜んで千吏の手を握る。
「包装して、プレゼントしてやろう!」
「ま、まて! はやまるでない、千吏殿!! ハカセ、ソレはダメだ!」
「うむ、数十個やる!!」
「ハカセッ」
「はわわわ」
ハカセとZAN、二人のあまりの剣幕に千吏が目を丸くする。
「うおし、なんなら今から造って進ぜよう。新鮮なケーキをっ!!」
カッ!と握りこぶしをラオウの如く天につきたてる。
「つくらんでいい! 翡翠殿も止めてくだされ!」
翡翠はあらまあ、という顔で呆然としている。…どうやらまだ固まってるらしい。
「何色がすきだ、千吏?」
「白が好きですw」
「フム…わかった」
ZANを無視して師弟コンビの会話が続く。
「ああ、そうだ、チョコレートとかもあるがな、ケーキでいいんだな?」
「はうっ?! ZANさん、どっちがお勧めですか?」
「どっちもダメでござるっ!!」
「なんだったらキャンディもあるぞ? フフフ」

尊敬の先にあるもの…
「うわ、お師匠様、すごい、何でも作れるんですね」
完全に尊敬の眼差しでウィケッドを見あげる千吏。
「なんだったら全部もってこようぞ?」
「い、いえさすがに全部は食べ切れません」
「ええい、だれか居ないのか! ヤツをとめられるのはっ!」
ZANが狼狽して叫ぶと、他の席の連中はそそくさと視線をそらした。皆、以前ケーキを食べた者がどうなったか、その末路は充分すぎるほど理解している。最近では近所の親が子供をしかる時に『そんなに言うことを聞かないなら、いまからウィケッドさんにケーキ作ってもらいますからね!』といって叱っているらしい。正直言って係わり合いになどなりたくはなかった。
「そんなこと言わないで、ZANさんも一緒に召し上がりませうw」
嬉しそうに千吏がいい、ZANが再びフリーズ。
「そうだな、皆で食べたほうが美味しいぞ♪」
嬉しそうにウィケッドがいい、ZANが再起動。
「のーさんきゅぅでござるっ!!」
そしてさらに嬉しそうに千吏が言い―――
「はわわ! もちろんお師匠様もご一緒にw」
―――全員がフリーズした。

最大の危機
「ぇ…」
ハカセの目が点になっている。
「皆さんと一緒♪お師様も一緒♪」
千吏は嬉しそうに小躍りしている。
「ハカセ」
「…」
「食えよ」
そこまで黙っていた翡翠がぽんと手を叩く。
「千吏ちゃんも作ったらどうかしら?」
「ほよ? ケーキですか?」
「い、いや? …あー。材料がつきてしまったなぁ? はは、これでは私の分はないなぁ」
もう、思いっきり棒読みでウィケッドが頭をかいてごまかそうとする。
「さっき数十個とかいってなかったか、お主…」
冷ややかなZANの言葉に、ウィケッドの額に脂汗が浮かぶ。
「いや…私は甘い物がニガテでな」
「塩でもミソでも用意してやるでござる」
「ではお師様、辛いケーキ作りましょうか?」
「いいえ>みんな」
「ごまかすな」
「あ、お師様、みんなで一緒に食べたらきっと美味しいですよ!」
天真爛漫に千吏がいう。悪意がないだけに今一番きっついのは彼だった。
「ZANさんも翡翠ねぇちゃまも…みんな一緒に♪」
「うむうむ、それがいい、そうしたまえ、ZAN」
ウィケッドがささっと千吏の後ろに廻って頷く。
「…」
「…ふふ」
ZANは無言。翡翠はにっこりと笑っているが、背景の黒いオーラが思いっきり拒否をしている。
「では全員そこで待っていたまえっ。すぐにもってくるからなっ!」
言い残すが早いか、ウィケッドは一目散に喫茶店を飛び出す。
「あ、待つでござるっ!」
ZANが慌てて席を立つがその瞬間、ストロボライトを焚いたような閃光がドアの向こうから差し込む。
「…リューカですわね」
「…街中で…そこまでするか、ハカセ」
「…よっぽど嬉しかったんだろうねぇ。食べてもらえる人が居て」
水を替えに来たマスター、ハイアームズがうんうんと頷く。
「自分が作ったものを喜んでもらえるのは、嬉しい物ですよ」
「いや、マスター。それおぬしのコーヒーなら納得するのでござるが…あやつのケーキはちょっと…」
「…うわさには聞いてますが…そんなにすごいんですか?」
「うむ」
「そ、即答ですか…」
そうこうしているとふいに翡翠が時計を見上げる。
「あら、すいません、私ちょっと用事があるので、これで失礼しますね」
そういってぺこりとお辞儀をするとスタスタとドアに歩いていく。
「千吏ちゃん、またね」
「はいですー」
「あ、こらまて」
再び扉の向こうから閃光。
「逃げましたね…」
「逃げたでござるな…」
残ったのはZAN、ハイアームズ、そして千吏。
「むう、拙者では止められぬ…どうすれば…」
そこでZANははっと気がついた。そうだ、彼ならあるいは―――!
「ハイアームズ殿、ちょっと思いついたでござる。彼なら、今の彼ならなんとかしてくれるかもしれぬ」
「彼? 誰です?」
「呼んでくるでござる」
そう行って喫茶店を飛び出し、また閃光。
「テレパイプ…このまま置き去りにされたんじゃないでしょうね?」
思わず呟いてしまったハイアームズであった。

緊急信号!
ZANが家に戻ると、残念ながら家には誰も居なかった。
「ク、仕方ない…」
ZANはPBクリエイトを4つ装備するとそのまま郊外の船体メンテナンスハッチへ向かう。
二重のエアロックを抜けて外へでる。
「まったく、なんでこんなことをせねばならぬのだ…」
だがそれが彼を呼び出す方法と信じて、今はソレにすがるしかない。
パイオニア02―――それは本星をあとにした、殖民の為の大宇宙船団である。
その大船団は現在、パイオニア2の惑星軌道上に展開している。紡錘形の陣を組んでいる。その天頂に位置する観測船、そこまでZANはやってきた。この船は完全自動化され、乗員はいない。
「さて…頼むぞ…」
ZANは祈るような気持ちでフォトンブラストを発動させる。無論ソレは、ファーラ。
「遥けき遠くの盟約に従い、我が前にその力を示さん…いでよっ、UNAGI!!」
その光は、何者も居ない虚空に輝きを放った。

伝説の男
カランコロンカラン♪
ドアの上に付いたカウベルが来店者を伝える。喫茶店ハイランド、そのマスターであるハイアームズが振り返ると、そこにはリューカの逆光を背に一人の偉丈夫が立っていた。
鍛え上げられた身体はぴったりとした白いスーツに包まれている。ぴんと張った背筋。付き過ぎず、絞り過ぎていないその体格は体操選手もかくやというほど見事なものだった。がっしりとした見事な骨格に、日焼けした肌。
蒼い髪の毛は彼の人格を示すようにまっすぐに天を突いている。瞳は厳しく、そして知性に満ちていた。
太い眉が強い意思をあらわし、強く結んだ口元が彼の不退転の覚悟を示してる。
「あ、あなたは…」
ハイアームズの前に、まだ駆け出しだった頃世話になったスペースマンが立っていた。
もはや本星の記録にも残っていない、伝説の男たち。
「立派になったな、ハイアームズ」
そのスペースマンから最高の賛辞が送られた。

「なぁに、まかせておけ」
「話はすべてZANから聞いた。千吏クン」
「は、はいぃ」
なぜか気をつけをしてしまう少年に、スペースマンは苦笑して肩を叩いた。
「なに、そんなに緊張しなくてもいい。キミの協力が必要だ。頼んだぞ」
「ハ、ハイィ!」
「しかしDANさん、一体どうやって…?」
「なぁに、オレに策がある。まかしておけ」
DANはいつもと同じように、白い歯を見せて笑う。あの頃と変わらぬその不適な笑みに、ハイアームズは一つ頷くと彼のために熱いコーヒーを淹れるのであった。

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