大都会騒動顛末記 第六話 ハカセの策謀(その1)

さて、まずここまで読んで頂いた諸兄、続きを待ち望んでいた皆様に、前回から大変時間が経過してしまっていることをおわび申し上げる。大変お待たせしました。
弁解めいていることを承知で告白させて頂ければ、ここまで遅筆になったのも、此処から先の出来事は正直語りたくない。拙者個人の恥を晒すことになるからだった。
何を今更と、諸兄はお思いかもしれない。なるほど、その通り。これまでも様々な事を経験し、傍観し、体現し、演じてきた。その点を指摘されればその通りとしか応えようがない。幾多の事象の中にあって、拙者は喜怒哀楽を感じ、またそれを正直にこの場に書き記すことにより恥もかいてきたかもしれない。
だが、しかし、である。今回の出来事はそれらとは一線を隔するものといえよう。あの出来事は…正直拙者という一ロボットにとってその記憶領域から抹消してしまいたい、出来事であった。
だが、ここまで執筆を続けてきた拙者にも小さいながらも意地がある。ここまで書いたのだ、委細漏らさず書き記してしまおう。それがまかりなりにも一度筆を持ったものの責務である。たとえわずかな人の目にしか留まらず、また砂地に雫がしみ込むように忘れ去られていくものであったとしても、あの出来事を無かったことにすることはできない。そう、あれはその時、まさに起こったのだ。本編をお送りする前に斯様な前書きを用意させて頂いたのは、拙者自身の覚悟を諸兄に心得て頂こうという次第である。このような慇懃な文章を読まされている諸兄においては迷惑この上ないことであろうが、どうか一つ、ご了承頂きたい。そして拙者の身に何が起こったか、シッカリと覚えておいて頂きたい。
前書きの最後として、拙者がこの文章を書くに当たって親身になって相談に乗ってくれたハイアームズ氏、シャルテ氏の両名に謝意を表じたい。ーーーよくもありがとう。


展望室を後にした我々一行はその後、食事をとり、解散となった。
ラファエル、ウィケッド両名は遠方のため、近場に宿を取り、また翌日という運びになる。
その際、明日の行動をどうするか決めようとしたのだが、そこでハカセの爆弾発言があった。
「うむ、ZANのお宅拝見、というのはどうだ?」
はい?
「賛成ー」
アスが真っ先に応える。
「大賛成!!」
ラフが意気込んで応える。
「おぬしら、ちょっとまて! 拙者のトコなんて狭いし汚いしいいことないでござるよ?!」
「えー、でも佐助、泊まる所なかったら泊めてやるとか言ってたぞ?」
「うむ、言っておったな」
それとコレとは状況がちがうっ!
「ふぃ、フィロ殿もなんとか言って下され」
「ちぇー。明日ボクお仕事なんだよなぁ…」
Oh ブルータス! おまえもかっ!
「さあ、というわけで明日の朝、押し掛けるからきりきりと住所を吐け」
「ぐっ」
言葉に詰まった拙者は10時ごろということで確約をとり、住所を教えた。

そして翌日
「フハハハ! ついに潜入したぞ!」
ハカセが高らかに宣言しつつ拙者の部屋に入ってくる。
「秘密のアジトに潜入! さすが俺! さすがナイスガイ!」
朝っぱらからラフもハイテンションだ。
「ああ、よくも来やがったでござるな。うんうん、だがなーーー」
拙者が時計を指さす。
「8時半たぁどういうことでござる!」
「む、貴重な時間を無駄にはできぬからな」
「無駄にしろ!」
「なにをいう、こんな千載一遇のチャンス、そうはないのだぞ?」
「佐助ー。なんか片づいててつまらないー」
「やかましい、昨晩のうちに慌てて片づけたのでござるッ」
叫ぶ拙者の背後でハカセがキラリと目を輝かせる。
「ふむ、ラファエル。そこら辺を物色すると多分色々出てくるぞ」
「了解~」
「あああ、こら! 勝手に開けるな!」
「マラサイどこかな~」
「ってなんでそんなことをおぬしが知ってる?!」
「兄貴に聞いた」
「ハイアームズ殿かっ!! こ、こらそこに並べてあるものをーーー」
と、そこで拙者の記憶が途切れた。
ラフの行動に気を取られた拙者の背後から、ハカセがシステムに強制介入したのである。
「フフフ。見よ! このポータブルアンドロイド停止装置! 天才だからこそできる超小型サイズっ!」
「おおー。よくわかんねぇけどスゲェぜ。佐助が止まっちまった」
ラフが適当に拍手をする。ハカセは鼻高々だ。
「で、佐助止めてどうするのヨ?」
「決まっておろう。実験するのさ。…これを使ってなっ!」
そう言って帽子の中からとり出したのは電話機サイズのアヤシイ箱である。ひどくシンプルな作りでいくつかのライトとスイッチしかついていない。箱の側面にはピンジャックがあり、ハカセは鼻歌交じりでそこにヘッドフォンの様なものを取り付けていく。その数、3つ…。
「なによ、それ?」
「フフフ。これぞ我が研究成果の一つっ! 人格乗っ取り装置だ」
「……?」
ラファエルがなにそれ?という目で機械を見つめる。
「どーみてもサウンドプレイヤーにしかみえないんだが…」
「ぐっ、ちがうっ! これはこっちの青いヘッドフォンをかけた人物を、赤いヘッドフォンをかけた人間が操ることができるという画期的な装置なのだ!」
「ふーん」
「……」
「……」
「……」
「…っってそれすごくね?!」
おそい、遅いぞラファエル。突っ込みたくなる気持ちをぐっと抑えて(なにせ突っ込んでると何時までたっても進展しない)、ハカセはぐっとヘッドフォンをセットした。
では、これよりこのバカアンドロイドを操ってみるぞ!
「なぁなぁ、オレも?」
きらきら目を輝かせるラフに、天災は重々しくうなづいた、
「うむ、ちゃんと赤い方は二つあるだろう」

気がつくと、拙者はすごい違和感を感じた。まるで自分の身体が自分のものではないような、そんな感覚。むう、なんだこれは? うつろな思考で感覚デバイスのチェックをかける。
外部からの入力信号はちゃんと感じられる。だが、どこか曖昧だ。まるでフィルターでもかかっているかのような違和感がある。
視線の先にはラグオルの地表。そして剣を握る拙者の手。装甲はドメスティックな紫色。
…はて?
「大丈夫ですか? ZANさん」
訝しげに拙者にかけられる声は、後ろにいたアリアンロッド殿からだ。
「拙者、大丈夫でござるよ」
と、拙者。はて、何が大丈夫なのだろう?
「そうですか? なんかいつもよりその…大分攻撃を食らっているようですが…」
「そんなことないでござるよぉ」
確かに、アスターク相手に苦戦しすぎだ。普段の拙者なら愛用の紫の剣でずばーっと…ってなんで装備が[シンセサイザー]??
「うおお、絶好調でござるなぁ」
「フフフ、まったくだ」
「まるで中の人が複数いるみたいですねぇ」
その言葉に拙者の意識も完全覚醒した。と、同時に現状把握を開始する。自らの意識体から身体へのアクセスにフィルタがかかっている。受動的データは受け取れるが、こちらからの信号が阻害され、外部からの信号により身体が操作されている。どこから? 拙者の身体はラグオルで単独活動中。外部とのアクセスリンクは確立していない。注意深くアプリケーション層を漁る。見つけた、メモリ空間に広大なスワップファイルを発見。この中からアクセスが行われている。主体となって動いているルーチンは二つ。これは…。
エリア内の敵をどうにか全滅させると、ZANの動きがシンセサイザーを構えたままぴたりと止まる。
「? ZANさん?」
アリアンロッドが声をかけるが、動く気配がない。
「おろ、佐助が動かなくなったぞ?」
「なに?」
声だけが、スピーカーから外に流れる。
何事かとアリアンロッドがZANの目をのぞき込む。
カメラアイのズームレンズ機能が小刻みに震えている。
「……」

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